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Wer früher stirbt, ist länger tot
     早く死んだ人は、より長く死んでいる

ドイツ映画 (2006)

バイエルン州出身の監督による、バイエルン方言にこだわった、バイエルンのための作品。最初は、バイエルン地方だけで細々と上映されていたが、その後急速に人気が出て、ドイツ全土で、何ヶ月もベスト10に入る人気映画となった。IMDbの7.5は、非常に高い数値だし、現在価値に換算して26億円という興行収入は、2018年のドイツの興行収入ベスト1の『男の子には新鮮な空気が必要だ』の35億円と比べても見劣りがしない。授賞数は8。あらすじで用いたロケ地の写真10枚は、ファンサイトから借用したものだが、その熱意から、この映画が、如何に好かれていたかがよく分かる。映画の魅力は、何といってもコメディーとしての充実度と、ラブ・ロマンスとの絶妙なバランス。悪戯っ子の権化にもかかわらず、可愛くて素朴な主人公のセバスチャン。考えもつかないユニークな設定だ。美しいバイエルンの風景。軽快な音楽。そのすべてが素晴らしい。題名は内容とは直接関係がなく、ドイツでも無意味とされる諺。強いて意訳すれば 「遅かれ早かれどうせ死ぬ」、もしくは、内容に少しでも近づければ、「Wer früh stirbt, ist länger im Himmel」という類似した諺「早く死んだ人は、より長く天国にいられる」が近いのかも。これは、セバスチャンの出産で死んでしまった母に対する強い謝罪の心を現わしている。なお、台詞は、「バイエルン方言にこだわった」とされているので、北の首都ベルリンを東京とすれば、南の旧バイエルン王国の首都ミュンヘンは大阪が相応しいと思い、大阪弁を使うことにした〔いつも通り、「恋する方言変換」を使用〕。また、このDVDには未使用シーンが複数入っているが、字幕は付いていない。試しに、Googleドキュメントの音声入力を使い、音声をドイツ語に文字変換してみたが、惨憺(さんさん)たる結果に終わってしまった。

南ドイツのバイエルン〔英語ではババリア〕地方の田舎に住む11歳のセバスチャン。父は町で1軒しかないレストラン兼パブのオーナー兼コック、兄は、その手伝いで食肉用の動物の世話をしている。母は、セバスチャンのお産の時に死んでしまって、セバスチャンは会ったこともない。父は 男やもめのまま 不機嫌な毎日を送っている。そんなある日、常連客で、夏の4人芝居の練習を父の店でやっているトラックの アル中運転手が、前方不注意でセバスチャンの自転車とぶつかったことで、すべてが始まる。セバスチャンにケガはなかったが、自転車はトラックの下敷きになり、しかも運転手はそれに気付かずパブに入ってしまう。セバスチャンは自転車を引き出そうとして出せず、トラックに無断で乗って前進させ、兄が大事にしている兎小屋にぶつけ、すべて死亡させる。怒った兄は、セバスチャンを縛り付けて 殺した兎に謝罪させ、その後で、母を殺したと揶揄する。それまで、母の死は別の原因だと教えられていたセバスチャンは ショックを受ける。その夜、セバスチャンは、自分の死後の審判で、母殺しにより煉獄に送られるという悪夢を見る。だから、セバスチャンは、死ぬのを極端に恐れる。「死んだら煉獄」と悩むセバスチャンを見た演劇グループは、子孫を作れば、母の遺伝子が受け継がれると言って慰める。子孫の作り方を訊いたセバスチャンに、トラックの運転手は、大人になってからの話だと思い、「俺とファックせえへんか」と訊けばいいと、教える。ところが、事を急ぐセバスチャンは、その意味も分からず、よりによって担任の教師にそう訊いてしまい、一躍問題児No.1になる。その教師には、地元の1人しかいないラジオDJの夫がいた。クラスの生徒が、山の上にあるラジオ局に招かれた時、ギター好きのDJは、世界有数のロック・ギタリストのことを「不滅」という言葉で紹介する。子孫は失敗したので、「不滅≒不死」に魅かれたクリスチャンは、母がギターを弾いていたことを写真で見て知っていたので、家に戻ると、しまい込まれていたギターを取り出して、“不滅” なくらいに巧くなろうと決意する。練習は夜遅くまで続き、授業中は睡眠の時間。おまけに指は傷だらけ。それを見た担任は、問題児No.1を再確認する。そのセバスチャンは、同じクラスの女生徒エヴィの誕生パーティに招かれた時、 ずっと寝たきりのエヴィの曾祖母に会い、死んで天国で母に会ったら、父のパブの電話を3回鳴らすよう頼む。そして、そのお返しに、外に出たいという彼女の希望を叶えようと、ベッドを無理矢理外に出そうとして、結果的に、彼女が死んでもおかしくないほどの危険な目に遭わせてしまう。幸い、曾祖母はケガ一つなかったことで、エヴィはセバスチャンに協力して、ラジオDJが毎週1回やっている「写真の人同士が愛し合うようになる」呪文の番組にセバスチャンを参加させる。セバスチャンは父の写真を持参し、ラジオDJの手元には妻の「セバスチャンの担任」の写真があったことで、たまたま、問題児セバスチャンをどうするかで学校に呼び出されていた父と担任の間に愛が芽生える。そのことで絶望したラジオDJの夫は山の上のラジオ局で首吊り自殺を図ろうとし、一方、父が、既婚の先生を愛してしまったことを悩んだセバスチャンは、悪夢でラジオDJを殺せとそそのかされ、ピストルを持ってラジオ局に向かう…

断トツの主役セバスチャン役は、マーコス・クローガー(Markus Krojer)。1994年2月3日生まれで、映画の撮影は2005年7月4日~8月18日なので、映画の設定と同じ11歳。これが映画初出演。全編バイエルン方言の映画なので、出身は当然バイエルン地方のMainburgという小さな町の出身。セバスチャンの環境とよく似ている〔ミュンヘン生まれの都会っ子ではない〕。この映画のあと2本TV映画に出演しているが、特に『Rettet die Weihnachtsgans』(2006)は、この映画の直後の撮影なので、顔は全く変わっていない(下左の写真)。ただし、DVDなどは販売されていない。その次の作品が、再び主役となった『Die Perlmutterfarbe(真珠色)』(2009)。13歳だが、雰囲気はまるで違っている(下右の写真)〔エクボと鋭い目は変わっていない〕。後者は、手元にあるので タイミングを見て紹介しよう。

あらすじ

グラウディンガーという男が運転する1台のトラックが街道をそれて、村への道に入って行く(1枚目の写真)。この映画は、バイエルンのあちこちで撮影されていて、特定の場所というものがない。この分岐点のロケ地の先にあるのは、Kohlgrubという、ごく小さな村。しかし、この映画の主役、セバスチャンの父のレストラン兼パブのロケ地は、Oberbibergという別の町だ〔Kohlgrubは、Oberbibergの南東54キロにある〕。この分岐点の、映画の中ではなく、現実の風景(2枚目の写真)は、http://www.bdyg.homepage.t-online.de/ という熱心なファンサイト(映画の各シーンの撮影場所を克明に追求)からコピーしたもの。映画の次のシーンでは、セバスチャンが、ハンドルの前にラジオを付けた自転車を、ラジオの軽快な音楽に合わせて楽しそうに乗り回している。レストランの裏手で飼っている食材の鶏の群れに突入して(3枚目の写真)、兄フランツからは 「アホンダラ! 鶏を、轢くつもりか!」と叱られる。セバスチャンは、自転車に乗ったままレストランの中に入って行き、開業前で掃除中の父ローレンツから、「危ないぞ!」と注意される。「最短コースなんや!」(4枚目の写真)。この場面は、前記サイトに、内部の写真まで掲載されている(5枚目の写真)。4枚目の写真の、濃い緑のタイルのストーブと、その前の小さなテーブルの配置は、5枚目の写真と全く同じだ。
 
 

セバスチャンは、レストランの裏口から道路に出ると、そのままカメラの方に向かって走ってくる(1枚目の写真)。一方、さっきのトラックのグラウディンガーは、吸い終わったタバコを 満杯の吸い殻入れにねじ込もうとして床に落とし、それを拾おうとする(2枚目の写真)。そして、トラックが急にガタガタと揺れる。グラウディンガーは、セバスチャンが出てきた道路に曲がり、レストランの裏口の前でトラックを停める(3枚目の写真、矢印は、セバスチャンの自転車の前輪と後輪)。グラウディンガーは、床のタバコを拾っていたので、セバスチャンとぶつかったことに気付いていない。セバスチャンは道路に横たわり、そこにタイトルが表示される(4枚目の写真)。題名が題名だけに、セバスチャンは死んだのかと思わせるが、すぐに意識が戻る。独白。「命拾いや!」。

セバスチャンは、トラックの下から自転車を引き出そうとするが、どうやってもできない(1枚目の写真)。一方、グラウディンガーにとっては行きつけの店なので、勝手に入って行きミルクを飲むと〔アルコールの中和のため〕、ドアに貼ってある演劇のポスターを指し、ローレンツに 「なんや思う?」と訊く。劇のタイトルは、「魔女裁判、あるいは、盗まれた幸運な豚」。店に貼ってあっても、ローレンツは興味がないので、それまでポスターを見たこともなかった。「支離滅裂や!」。その時、外で、ガチャンと大きな音がする。トラックが何かにぶつかった音なので、グラウディンガーが急いで外に出て行く。すると、トラックが、鶏や兎の飼育箱にぶつかっていた(2枚目の写真)。「何てえげつない! 何が、起きてん!」。グラウディンガーは、自分のせいだと思い、「もちろん、弁償するで。慣れのせいかいな? 畜生!」と言いながら、トラックをバックさせようと運転席のドアを開けると、そこにいたのはセバスチャン。グラウディンガーは、セバスチャンを引っ張り出す(3枚目の写真)。降りたセバスチャンは、父に頬を思い切り叩かれる。

トラックがバックすると、飼育係の兄が 「ああ! 兎が! 何て、えげつないんだ!」と、破壊された箱の中を調べる。それをセバスチャンは、困ったような顔で見ている(1枚目の写真)。兄が、黒兎を取り出して 「カール?」と呼びかけるが、反応がない。死んだ兎を手に、兄はセバスチャンを睨む。セバスチャンは、「眠っとったりして…」と、最悪の冗談(2枚目の写真)。怒った兄は、逃げるセバスチャンを捕まえると、倉庫の棚に後ろ手に縛り付け、カールを目の前に突き付け、「何とか言え!」と迫る。「ボクが、アホやった!」。兄は、「アホやったで、済むことか?」と怒鳴ると、頭を平手打ち(3枚目の写真)。

そして、「悪いこと やった奴には… 罰は、当然や」と言う。「そんな」。「最後の審判が、待っとる」。「なんやって?」。「兎が死んだら、判決は、煉獄行きや」(1枚目の写真)〔煉獄と言っているので、カトリック教徒〕。「どんなトコか、体験さしたる」。そう言うと、ライターを取り出し、セバスチャンの足に火を近づける。「何すんだで、やめろ!!」(2枚目の写真)。「ちゃんと謝れ!!」。カールの死骸が再度突き付けられる。「かんにんな、カール。死んだのは、ボクのせいや」。次は 黒い斑点のある白兎。「かんにんな、ワルプーガ。死んだのは、ボクのせいや」(3枚目の写真)。3匹目。「かんにんな、ビンチェンツ。死んだのは、ボクのせいや」。

謝罪が済むと、セバスチャンは 「済んだやろ。ほどけや!」と、生意気に言う。兄は、セバスチャンの髪をつかむと、「まだ、続きがある。他にも、殺してるやろ?」と問責する(1枚目の写真)。「何?」。「しらこい〔白々しい〕!」。「知らへんで」。「知らへんやと?」。「知らへん」。「ママや!」。「嘘や!」。「ママを殺した。そやさかい、謝れ!」。兄は、倉庫の奥の棚から1枚の紙を持って来て、セバスチャンに 「読め!」と命じる。「永久(とわ)の安らぎを」。「日付や!」。「1995年8月8日」(2枚目の写真、矢印)。「まだ、分からんか?」。「ボクの誕生日や」。「ママが死んだ日や! これで、分かったやろ… お前が、ママを殺してん」。これは、セバスチャンにもショックだった。「自動車事故で、死んだと…」(3枚目の写真)。そこに 父が入ってくる。「何しとるんや? アホは やめろ」。「こいつが ママを殺したって、判らしてやっとる! 誰も、教えへんさかい」。これに対して、父は激怒する。「気でも、狂うたか? 自分の 弟なんやぞ? 何様の気や!」。「だって、兎が…」。「どのみち、絞めるつもり やったんや!」。「ほんまに?」。「もちろん。十分、肥ってきとったろ」。

兄が、父に、「もっと、早う言うてくれや」と文句を言い、「畜生!」と吐き捨てるように言って逃げ出したので、父が怒って追いかける。セバスチャンは、手を縛ったロープを 何とか外すと、兄が さっきの紙を出して来た棚を開け、中を覗いてみる。そこには、母が最後の日々に着ていた妊婦用の服の下の箱に、兄にとっての思い出の品がいっぱい入っていた〔セバスチャンの出産時に母は死んだため、セバスチャンは母に一度も会ったことがない〕。中に入っていたものの中で セバスチャンが一番惹かれたものは、ギターを手にした母の写真だった(1・2枚目の写真)。夜、レストランで父が寂しそうにしていると、「魔女裁判、あるいは、盗まれた幸運な豚」の練習をするために 近所の連中が数名入って来る。最後の審判者役のクンバーガーが、ローレンツに、「リハーサルやさかい、ソーセージで結構」と声をかけ、検事役のグラウディンガーは廊下から 「玉ねぎ 抜きで」、弁護人役のプロスケが 「チーズもなし」と言う。クンバーガー:「初演は、5週間後だな」。その夜、セバスチャンがベッドで横になっていると、練習の声が聞こえてくる(3枚目の写真)。

レストランの1室では、少人数での稽古が始まっている(1枚目の写真)。中央が審判者のクンバーガー、右が検事のグラウディンガー、左が弁護人のプロスケ。審判者の前に跪いているのが裁かれるの魔女のカッフル〔男性〕、両脇の2人は端役。審判者は、「魔女め、幸運の豚マイキシンガーを、不幸の豚に変えおったな。神の名において厳罰に処す!」と叫ぶ。セバスチャンは、この言葉を聞くと、“魔女”=母を死なせた自分、“マイキシンガー”=妻や母の死で不幸になった父と兄だと思い、雨の降っている窓の外を見る(2枚目の写真)。そして、少しでも罪を軽くしてもらおうと、雨の中を 母の埋葬された墓地に走って行く。そして、墓の前まで来ると、兎に対する謝罪と同じ調子で、「かんにんなママ、死んだのは ボクのせいや」と何度も繰り返す。すると、墓の地面の中から泥だらけの魔物の手が伸びてきて、セバスチャンの腕をつかむんで(3枚目の写真)、中に引きずり込む。

セバスチャンが、悪夢から覚めて半身を起こすと、激しい息づかいが収まる。しかし、自分の両手を見ると、泥で黒くなっているのでびっくりする(1枚目の写真、矢印)。そして、何となく天井を見上げると、そこには、遥か上に最後の審判法廷があり、審判者が 「セバスチャン・シュナイダー、本日死亡。2713件の罪」と宣告する。検事:「2713件ですと! 最悪だ!」との声。審判者:「泥酔したグラウディンガーのクレジットカードで、口座から、23ユーロを盗んだ」(2枚目の写真)。弁護人:「まだ、子供なんです…」。審判者:「トニー〔意地悪な同級生徒〕の両親からコンドームを盗み、それに小便を入れ、教師の庭の木に吊るした」。検事:「恥ずかしく ないのか? この悪ガキ!」。審判者:「フローリの長女が、服を脱ぐのを見定めてから、電力ケーブルを切断した」「パブのトイレにいる プロスケを撮影し、その写真を掲示板に貼った」(3枚目の写真)「エヴィ〔セバスチャンのことが好きな女の子〕の自転車を、消防署の前に放置した」。弁護人:「まだ、子供なんです。何とか、ご容赦を…」。審判者:「フリードリヒ、ワルプーガ、カール、ビンチェンツなど7羽の兎を死なせた」。

そして、罪状宣告は、セバスチャンの最も恐れていたものに。「自らの母親の死にも、責任がある」(1枚目の写真)「その上、フランツを孤児に、ローレンツを、男やもめにした」「あらましを述べただけだが、これらの罪により、煉獄に14年だ! 放り込め!」〔プロテスタントは原則として煉獄を認めていない/バイエルンは ドイツで2番目にカトリック信者の多い州(2018年の調査で、人口ではノルトライン=ヴェストファーレン州に次ぎ 638万人、人口比率ではザールラント州に次ぎ 48.8%)〕。煉獄への入口が開かれ、セバスチャンは煉獄の番人に捉えられ、絶叫する(2枚目の写真)。すると、今度は、本当に目が覚める。息が激しい(3枚目の写真)。ベッドの下を覗いて、何もいないことを確かめる。

怖くて もう眠れなくなったセバスチャンは、レストラン兼パブに行く。それでは、練習を終えた4人がテーブルに着いて話し合っていた。弁護人役のプロスケが、夜遅くに入って来たセバスチャンを見て、「明日 学校やろ。寝ーへんのか?」と訊く。「眠られへんの」。「一緒に、ビールでも飲もう」。セバスチャンが座ると、そこに、父ローレンツが4人分のビールを置いて行く。プロスケは、自分のコップをセバスチャンに渡す。検事役のグラウディンガーが、「いったい どないしてん?」と訊く(1枚目の写真)。「ボク、死にたない」。プロスケ:「死ぬはず あらへんやろ」。グラウディンガー:「少なくとも、今すぐはな」。「死ぬのが 怖いんや」(2枚目の写真)。グラウディンガー:「誰かて、死ぬんや。それでええんや。だって…」。そう言うと、グラウディンガーは、壁にいっぱい掛けてある死んだ村人の写真の名前を読み上げ、「もし、みんな生きとったら、テーブルに、座られへんくなってまうやろ」と言う。すると、冗談映像で、部屋中が、死んだ男達で溢れ返る(3枚写真)。魔女役のカッフルが、「吸血鬼は 死なへんで。噛んでもらえや。死なへんで済むねん」と、これも冗談を口にする。それを聞いた審判者役のクンバーガーは、「講話が聞きたいなら、教会にすぐ行くんやな」と言って、出て行く。

翌日、セバスチャンは さっそく教会に行く。セバスチャンは「不死」について質問し、「不死は、神が 与えるものだ。善行を施していれば、死後も きられる」と諭される(1枚目の写真)。「ボクは、何したら… ええの?」。「信じるのだ、セバスチャン」。次のシーンで、セバスチャンは、木の幹に取り付けられた聖母マリアの木彫りの像の下まで来ると(2枚目の写真)、自転車を降り、聖母マリアに向かって祈る。この像のロケ地は、Ruhpoldingという町のSt. Georg教会の下にある大木(3枚目の写真、矢印)〔Ruhpoldingは、Oberbibergの東南東84キロにある〕。このすぐ後、セバスチャンは、すぐ上にある教会の墓地にある母の墓の前まで行く。あとで詳しく述べるが、母の墓のロケ地は、3枚目の教会の墓地にはなく、40キロも西にある別の教会の墓地にある。周辺の自然の景色の美しさから選ばれたとか。セバスチャンは、円筒形の陶器でできた宗教彫刻(?)を 母の墓まで持って行くと(4枚目の写真)、墓の前に置き、「かんにんな」とだけ言い、逃げるように走り去る。
 

ローレンツの店に 娘のエヴィに連れられて来た未亡人のクラマーは、「えげつない朝やった、シュナイダーさん。夜なら良かったのに! 世話する人がおらへんで、幸せね」と、事もなげに言う。さらに、「祖母は頑固で なんも食べへんし、朝が早いの。もし、奥さんが亡くならんで、寝たきりやったら… あんた、幸せやで」(1枚目の写真)〔介護老人を抱えた大変さは分かるが、この言葉は、妻の死から11年経っても立ち直れていないローレンツにとって、残酷〕。エヴィは、大好きなのに 見向いてもくれないセバスチャンに、「うちの誕生日パーティ、来てくれへん?」と尋ねる(2枚目の写真)。セバスチャンは、兎を電気ショックで生き返らせようと必死だ。「ほんとは 明日なんやけど、土曜にやんねん。そやさかい、何とか来れるやん?」。兎の後脚に バッテリーケーブルを繋ぎながら、「喜んで。君って、ほんまに感じがええなぁ」。「何してんねん?」。「何とか、償おとうしてるんや」。ここで、クラマーが、「エヴィ、そろそろ行くわぁ」と声をかける。セバスチャンは、「クラマーさん、コンセントに挿してや」と頼む。クラマーが、背後の壁にあるコンセントにプラグを差し込むと、爆発音がして、兎が破裂して血だらけになり、セバスチャンの頬にも血が飛ぶ。「失敗や。生き返らせるには、強すぎてもうた」(3枚目の写真、矢印は前脚と後脚)。エヴィ:「そうと知っとったら、言うたのに… 猫とはちゃうの。猫には7つ命があるけど、兎は1つだけやで」(4枚目の写真)〔少なくとも、日本では「猫に九生有り」、英語でも「A Cat Has Nine Lives」〕

セバスチャンは、さっそく 家で飼っている猫ベッピを、樽の水に沈めて溺死させる(1枚目の写真、矢印)。その最中に、兄が、「セバスチャン、夕食や」と呼ぶ。セバスチャンが、布袋に閉じ込めた猫を外に出すが、当然、生き返らない。「食卓に着いたセバスチャンの前に、父が皿を置く。兄が、「心して食べろ。兎の煮込みや」と言う(2枚目の写真、矢印)。「何って?」。「俺たちの体の一部になって、生きられる」。そして、父に、「せやな、パパ?」と訊く。「ああ」。ここで、セバスチャンが とんでもないことを言い出す。「猫の煮込みって、どんな味かいな?」(3枚目の写真)。「何の話や?」。「ベッピは、もう6回生きとったんや」。兄には、セバスチャンが何をしたか察しが付く。だから、すぐに席を立つと、セバスチャンを床にねじ伏せて何度も叩く(4枚目の写真)。

その日の夜も、セバスチャンは悪夢で目が覚める。そこで、また、レストラン兼パブに行き、練習を終えた4人のテーブルに座る。セバスチャンは、「死んだら、煉獄なんや… ママを殺したさかい」と、恐怖を口にする(1枚目の写真)。さっそく、弁護役で一番優しいプロスケが、「ママを、直接 殺した訳ちゃう」と慰め、検事役のグラウディンガーも、「間接的にすぎん」と賛同する。プロスケ:「それに、ママは 君の中で生きとる。分かるかい? 鼻のアザは、どこで もろうた思う?」。「知らへん」。「呼び名は、知ってるやろ?」。「母斑〔ドイツ語でも、同じ意味の “Muttermal”〕」(2枚目の写真)。「正解。君は、ママの遺伝子を持ってる。君に子供ができたら、ママの遺伝子は受け継がれるんや」。グラウディンガー:「子供をつくったら、不死になれる」。ここで、セバスチャンが 「やけど、どうやるん?」と尋ねる(3枚目の写真)。答えに窮したグラウディンガーは、「まず、うさちゃんが要る」と言う。「全部、死んでもうたで」。「兎ちゃう、可愛い子ちゃんのこっちゃ」。「それから?」。「その子に、近づいたら… 耳たぶを 噛んで… 囁く…」。ここで、グラウディンガーは、セバスチャンの耳に口を寄せ、他の3人に聞こえないように、「俺とファックせえへんか〔Willst du mit mir vögeln〕?」と囁く。「それで、ばっちり 不死や」。

翌日学校で。セバスチャンは、グラウディンガーに教えてもらった言葉をかける “うさちゃん” を探すが、どこにもいない(1枚目の写真)。しかし、教壇のイスに脚を組んで座り、夫でラジオDJのアルフレッドが、生放送で 「我らが愛しき、エヴィ・クラマー、11歳の誕生日おめでとう。5年C組のみんなも、ここへ特別招待したい」と話すのを嬉しそうに聴いている担任のヴェロニカの姿を見て(2枚目の写真)、これこそ意中の人だと思う(3枚目の写真)。休憩の時間となり、生徒達が全員クラスから出て行っても、セバスチャンだけ残り、席を立つと、ヴェロニカの前まで歩いて行く。「セバスチャン? どうしたの? 何か、用なの?」。セバスチャンは、話を聞こうと顔を寄せたヴェロニカの耳を噛む。思い切り噛んだので、ヴェロニカは悲鳴を上げ、「気は確か?」と訊く。セバスチャンは、これも グラウディンガーに教えられた通り、「俺とファックせえへんか?」と訊く(4枚目の写真)。ヴェロニカが怖い顔で、「何って?」と訊いたので、「ほな、あかん?」と訊き直す。「当たり前です」。

ヴェロニカは、授業が終わり、家に帰ると、さっそくセバスチャンの父に電話をかける。父は ちょうど料理用に殺した豚の血を使ってブルートヴルストを作っていたので、兄フランツが電話を取ったが、「電話やで、パパ」と声をかけても、「手ぇ放せん」。フランツ→ヴェロニカ:「手ぇ 放せまへん」。フランツ→父:「緊急かて〔緊急だって〕」。そこで、父が電話に出る。ヴェロニカ:「こちら、ドストレターです。セバスチャンの担任の。明日、面談に 来て頂きたいのですが」。「今は、困難です。なんか、やらかした?」。「言葉だけです。でも、非常に不謹慎な」。「何、言うたんや?」。「今日、私に、こう 訊いたんです… 『俺とファックせえへんか?』」(1枚目の写真)。それを聞いた父は、思わず手が滑って 血が服に着く(2枚目の写真)。ちょうど、部屋に入って来た夫のアルフレッドは、「話の後半だけ聞いたので、「聞き捨てならんな。誰と、話しとる?」と訊く。ヴェロニカ→夫:「シュナイダーさんよ」。「シュナイダーと、できとったのか?」。ヴェロニカ→セバスチャンの父:「火曜に面談を」。夫:「許さんぞ…」。ヴェロニカ→セバスチャンの父:「午後7時」。夫:「シュナイダーめ。俺が、山におる間に」〔ラジオ局は山の上にある〕。話しが ややこしくなったので、ヴェロニカは、「後で、かけ直します」と言い(3枚目の写真)、一旦電話を切る。「夫の前で、そんな電話 ようできるなぁ!」。「彼の11歳の息子が、今日、訊いたの。『俺とファックせえへんか?』って。だから、電話したの」。「なんや、そうか…」。夫の不機嫌は、セバスチャンの言葉の異常さにお構いなく、急に治る。

翌日は、DJのアルフレッドの山上ラジオ局への特別招待の日。登山電車が石を積み上げた崖の上を登って行く(1枚目の写真)。窓から見ていたトニーが、「落ちたら、全員即死や」と言い、近くにいた生徒は、セバスチャン以外全員が窓に集まる。セバスチャンは、今 死んだら煉獄なので、恐ろしくて席にじっと座っている(2枚目の写真)。一方、生徒達が来る前、アルフレッドは『宇宙への祈り』という番組をやっている。それが始まると知ったクラマーは、台所仕事をやめてイスに座る。アルフレッドは、インディアンの酋長のような姿をして、「深呼吸して、集中しまひょ」と マイクに向かって話す(3枚目の写真)。「目の前に 写真を置き、会いたいと宇宙に向けて祈るんや」。クラマーの前には、先立った夫とのツーショット写真が飾ってある。クラマーは、両手を(ラジオなので見えはしないが)アルフレッドと同じように “親指と人差し指で輪を作って” 掲げている。アルフレッドは、右手に、ラマ僧が使うマニ車を持ち、くるくる回している〔一回まわすと一回経文を読誦したのと同様の功徳が得られる〕

生徒達は、山上のラジオ局に着く。エヴィは大好きなセバスチャンの写真を撮っている(1枚目の写真)。2人の間に見えるのは、Wendelstein山(標高1838m)〔Wendelstein山は、Oberbibergの南東45キロにある〕に登るロープウェイ〔登山電車などない〕の終点にあるパノラマレストランの屋根。アルフレッドのラジオ局のシーンは、このパノラマレストランの中で撮影された。ならば、生徒達がいるのはどこか? それは、バイエルン放送局の建物で、それを正面から撮影したのが2枚目の写真(矢印は、セバスチャンのいる場所)。同じ放送局でも、こちらの方は、本格的な大型の建物で、普段このテラスは立入禁止だとか。山の頂上に見える小さな白い物は、天文台。この建物の裏には、気象台もある。生徒達は、1枚目の写真の階段を下りて、アルフレッドのラジオ局(パノラマレストラン)に入る。壁には、ギターの “神様たち” のポスターが貼ってある。セバスチャンは、ポスターの下の小箱に置いてあった小さな▼型の物を取り出すと、「これ、何なん?」と訊く(3枚目の写真、矢印)。「爪や。ギターを弾くのに使う。ジョン・ウッドストックが使うたもんや」。エヴィ:「それ誰?」。「彼は、ジミー・ヘンドリックス以来、世界最高のギタリストや」。「ジミー・ヘンドリックスって誰?」。アルフレッドは、「誰かって? 信じられん。そんなん常識やんけ。呆れた。何て教育制度なんや。最低の常識すら 知らへんなんて」と、腹を立てる。こうした会話は、すべて生放送でラジオに流れているので、セバスチャンの父と兄が買い物に来たスーパーの店内放送でも聞こえている。アルフレッドは、ヘンドリックスについて話し始め、「…15で母を亡くし、27で死亡。せやけど、彼は不滅や」まできたところで、セバスチャンが、「なんで?」と訊く(4枚目の写真)〔セバスチャンは、不死≒不滅に拘っている〕。「不滅… 彼は音楽を作った。死んでから35年、未だに、世界中のラジオで流されとる」〔セバスチャンがギターに興味を持つきっかけとなった〕
 

アルフレッドは、「誰か、ハローって言いたい子は?」と訊く。さっそく、セバスチャンが、「はい」と言う。マイクの前に呼ばれたセバスチャンに、アルフレッドは 「ここで、話すんや。名前は?」と訊く(1枚目の写真)。「セバスチャン・シュナイダー」。「セバスチャン・シュダイダー? 君か!」〔アルフレッドは、これが例の問題児だと分かる〕。「なんか?」。「別に。さあ、始めて」。セバスチャンは、「みんなが、聞いてるん?」と訊く。「もちろん」。ここから、セバスチャンの独演が始まる。「最高。ほな、ママに挨拶するなぁ。すんません、殺してもうて。死んだのは、ボクのせいや。ベーリンツさん、聞いとったら… 椅子に強力接着剤を塗ったり、ドアマットに犬のフンを置いて、すんません」(2枚目の写真)「フベルさんも、ごめんて。スープに、ツバを入れた。丁寧に給仕してるのに、チップがなかったさかい。パパも、同じことしてる言うとったけど〔これで、父が恥をかく〕」。話が変な方に行きそうなので、アルフレッドが急いでマイクを取り上げる。スーパーでは、セバスチャンの父に、「聞いたかね?」と言って笑った店長を、父がカートごとペットボトルの山にぶつける(3枚目の写真)。

セバスチャンは、アルフレッドに無断でウッドストックのギターの爪を持ち出す。家に戻ったセバスチャンは、母の物が詰まった棚からギターケースを取り出し、床に置くと、中から母のギターを取り出し、宝物のように手に取る(1枚目の写真)。そして、ウッドストックのレコードをプレーヤーにかけると、ギターを手に持っているだけで、何となく自分が弾いているような気持になり、嬉しくなる。しかし、突然、トーンアームがレコード盤から払い除けられ、音楽が途切れる。びっくりしたセバスチャンが振り向くと、そこには、真剣に怒った顔の父がいて、「ギターを寄こせ。二度と触るんちゃう!」「自分〔お前〕は、最低や! アホなこと、ペラペラと!」と、ギターを勝手に持ち出したことと、山の上でうっかりしゃべった “唾” の両方で叱られる(2枚目の写真)。セバスチャンは、「ギターが欲しい! ママのやろ! なら、ボクのもんや!」と、珍しく父に強く反抗し、2人でギターの奪い合いになる(3枚目の写真)。そして、父が力任せに引っ張ったので、ネックが折れて、ボディとバラバラになってしまう。悲しくなったセバスチャンは、泣きながら家を飛び出して行く。

セバスチャンが向かった先は、当然、母のお墓。3回目だが、墓地の様子が一番良く分かる。お墓の前で、セバスチャンは、「やあ、ママ、謝罪の言葉 聞いてくれた?」と話しかける(1枚目の写真、矢印は白い鳩)。以前、聖母マリア像のところで簡単に触れたが、この墓地のロケ地は、聖母マリア像のある場所ではなく、Brannenburgという町のSt. Margarethen教会の墓地(2枚目の写真)〔Brannenburgは、Oberbibergの南東48キロにある〕。セバスチャンは、さらに、「ボク、いっぱい悪いことしてきた。そやさかい、死んだら地獄行きだ。やけど、ママは天国やん。もう、二度と会われへん。そやさかい、死にたないんや」と、心情を訴える。そして、「ママの代わりに、ギター勉強する。それで、許してくれへん? なんか、合図がもらえたら嬉しいな。何でもええで」と、すがるように頼む。すると、飛び立った鳩が、セバスチャンの頭に白い糞を落としていく。これが、了解の合図だと信じたセバスチャンは、「そうか… すごいや、おおきに!」と大喜び(3枚目の写真、矢印)。
 

ギターを諦めきれないセバスチャンは、電車に乗ってミュンヘン駅まで行く(1枚目の写真、矢印)。そして、ギターを持った母の写真を手に、同じギターを売っている店を探す。そして1軒の店で、全く同じギターを見つけて、大事そうに手に取る(2枚目の写真)。店員は、別の客の相手をしながら、「ええギターやろ? 音を、試して」と声をかける。しかし、一度も弾いたことのないセバスチャンが、爪を取り出して、乱暴に弦を鳴らしたので、傷付けられたらたまらないと心配した店員が飛んで来て、ギターを取り上げ、初心者用のセットを勧める。セバスチャンは、「ボクは、さっきのが欲しい。ママも弾いとった。幾らなん?」と訊く(3枚目の写真)。「1650〔当時のレートで約25万円〕」。「ツケ〔anschreiben〕じゃあかん?」。セバスチャンは店を追い出される。

セバスチャンは、歩道で しわくちゃの紙に、「かんにんな〔Entschuldigung〕」と書くと、店に侵入し、紙を置き、代りにギターを盗んで店から飛び出す(1枚目の写真、矢印)。この店は、Stornecker通りという狭い街路と、Talという広い通りの角にある「Rauscher」という楽器店(2枚目の写真、矢印)。しかし、すぐに店員に捕まり、警察に。セバスチャンはパトカーに乗せられて自宅まで連れて来られる。同行してきた女性の警官は、「正直に言いますが、彼が12歳以下でなくても、これが最良の方法かと」と、罪に問わないと告げる。父は、「穏便に処理していただき、おおきに」とお礼を言う(3枚目の写真、矢印はセバスチャンが店に置いてきた紙)。
 

警官が去っても、父はセバスチャンを叱らない。代わりに、壊してしまったギターを修理したものを持って来て、「自分ねん〔お前のだ〕」と言い(1枚目の写真)、セバスチャンに渡す。「止め具ぅ外せ。そっとな」。破損部を固定していた止め具を外すと、ギターのあちこちで接着剤が垂れて固まっているが、何とか元の形に戻っている(2枚目の写真)。弦を張り終わったギターを、2人で満足げに眺める。そのあと、父は、「なあ…」と言うと、セバスチャンの方を向き、「かんにんな」と言う。「何が?」。父は 「これや」と言うと、いきなりセバスチャンの頬を叩く。セバスチャンも 「ボクも、かんにん」と言い、父の頬を叩く(3枚目の写真)。このあと、2人は何度も互いの頬を叩き合う。

夜になり、セバスチャンはベッドの前で、初歩の練習からスタート(1枚目の写真)。弦をはじいた時の音の響きにうっとりする。時間が経ち、セバスチャンがベッドに横になったままギターを抱いていると、ドアの向こうから演劇組の声が聞こえてくる。クンバーガー:「ローレンツも 苦労が多いな。ややこしい年頃や。母親が おらへんさかいだ。店も、違うとったろう。これから、どないなることやら」。グラウディンガー:「ギターを弾いてる時のソフィーは、特別やった」。カッフル:「彼女に、憧れとったのか?」。プロスケ:「わくわくしたもんや」。カッフル:「魔法に かかっとった」。クンバーガー:「再婚させな… 知性、料理、美貌… 時々、けしかけたるか」(2枚目の写真)。この時、セバスチャンは、もう眠っていた(3枚目の写真)。

しかし、セバスチャンの目が開き、天井を見上げる。そこには再び “最後の審判法廷” が(1枚目の写真)。審判者が 「彼は、ギターを弾きたかったねん。母親のように」と言う。弁護人:「遺伝子のせいや」。審判者:「ナンセンス! 不死への、姑息な策略や。そうでのうして、ここには おらんはず」(2枚目の写真)。検事:「父親を、ないがしろに」。審判者:「罪を悔いるどころか、死を避けることに汲々としとる」。ここで、セバスチャンは悪夢から覚める。セバスチャンは、ベッドから出ると、ノートに、「1.知性 2.料理 3.美貌 4.信仰!」と書く(3枚目の写真)。

セバスチャンは、翌日、さっそく母の墓に行くと、「やあ、ママ。ボク、償い方が分かったで。パブでクンバーガーさんが言うとった。パパの将来について。苦労が多いさかい、再婚すべきやって。ボクのせいやさかい、自分でやろうと 思うんや」と 報告する(1枚目の写真)。そして、「パパの奥さん探し… ボクがやってもええ? また、なんか合図してもらえへん?」と訊く。一陣の風が吹き、カーネーションの花束が揺れる。水やりようのブリキ製のじょうろが倒れる。そして、白い鳩がある墓の前に集まる。それは、クラマー夫人の亡き夫の墓だった(2枚目の写真)。「ママ、クラマーさんなんやな?」。セバスチャンは、別のお墓に供えてあったカーネーションの花束を抜き取ると、そのまま木のマリア像に向かって階段を下り、像の下に置いておいた自転車に乗り、エヴィの誕生パーティの行われているクラマー家を訪れる。そして、ドアを開けた夫人に、「クラマーさん、これ、あんさんに。パパからです」と花を渡す(3枚目の写真)。そして、微笑みながら、「クラマーさんには、花がふさわしいそうです。知性、料理、美貌の方やさかい」と言う。クラマーは、戸惑うばかり。

裏庭では、エヴィの誕生祝いに招待された子が10名ほどお菓子を食べている。トニーが、「僕のを開けて」とプレゼントをエヴィに渡すが、セバスチャンがエヴィへのプレゼントを持ってきたとは思えない。セバスチャンがしたことは、「クラマーさん、このケーキ最高です」とお世辞を言ったこと(1枚目の写真)。「どこで、手に入れました?」。「お手製やで」。「ほんまに? 専門店で、買われたのかと。ウチでも買えたら、土曜のコーヒー・タイムは満席か、なって」。気色悪いほどの “よいしょ” だ。トニーがエヴィに渡したのは、ゾンビを撃つゲームのソフト。トニーが、やってみせようとすると、クラマーは 「あかんで、こんな天気のええ日に!」と禁止する。エヴィ:「うちの誕生日やん」。「暇つぶしなんて、もっての他やで。昔は、テレビなんかのうて、ボードゲームや、お話しがあっただけ」。ここで、すかさず、セバスチャンが口を挟む。「ボク、お話が めっちゃ好きなんや」(2枚目の写真)。「ええ機会やさかい、お話を聞かしてもらいましょ」。トニーは、「自分〔お前〕には、無理やな」と牽制球。「できるとも」。「話してみぃ」。「食事中に話すのは、行儀が悪い」。「ほな、早う食べろ」。セバスチャンは、ソンビの起源を話し始める。場所は、セバスチャンの父の釣りの家が湖畔にあるダニガという湖。話は、釣りの家の背後にある森の中で魔女が、火炙りにされかけていたところから始まる。「無実の女性たちやったけど、中に ほんまもんの魔女がおってん」。トニーが、本物の魔女なら火炙りになんかされないと、突っ込みを入れる。「処刑者たちは悪魔と契約しとったさかい、魔女でも怖うなかった」(3枚目の写真)「やけど、ほんまもんの魔女を焼こうとした時、魔女は、不死の呪文を歌い始めた。すると、男たちの体から火ぃ出て、心臓を焼かれ、湖に飛び込んで、溺れ死んだ」(4枚目の写真)「以来、満月の夜には湖から歌声が聞こえ、ゾンビどもが湖から出て来て うごめくんや」。他の子は凍り付いたようになるが、トニーだけは、「そんな話、信じへんで」と強がる。「怖いさかいやろ」。「ほな、ダニガ湖へ行こう」。「やけど、今は、満月ちゃう」。「なら、満月になったらだ」。こうして、セバスチャンは、満月の夜のダニガ湖行きを約束させられる。行きたいと希望したのは、他にはエヴィだけ。

ここに、クラマーがやってきて、みんなの皿を片付けようとする。セバスチャンは、「お手伝いします」と、席を立つ。「一人で できるわ」。「いつも、パパを 手伝うてますさかい」と、積極的に皿を回収する。そして、クラマーと一緒にキッチンに入ると、「いつか、パパを訪ねてくれへん。めっちゃ喜ぶさかい」と言う。そして、こう頼んだことについて、「誰にも言わんといて もらえる?」と頼む(1枚目の写真)。セバスチャンが、そのまま奥の部屋に入って行くと、そこには、かつて、クラマーがセバスチャンの父に 世話が焼けるとこぼしていた “祖母” がベッドに寝ていた。口がきけないのか、セバスチャンが声をかけても、一度、チラと見ただけで、身動き一つしない。セバスチャンは、サイドボードの上に置いてあった祖母〔エヴィの曾祖母〕の若い頃の、“死んだ夫” とのツーショット写真を指して、「これ、あなた? 思い出がいっぱいやん?」と優しく訊く。そのあとが、如何にもセバスチャンらしい。「それに、長生きやね。もう、長くないんやろ? ママは死んでもた。向こうで会うやろ? できたら… ママに会うたら、合図して頂けまへんか? パブの電話を3回鳴らすってか」(2枚目の写真)。祖母は、少しだが、頷く。「3回でっせ!」。僅かに笑みを浮かべて頷く。「どうもおおきに」。セバスチャンが去ろうとすると、祖母の手が僅かに上がり、目がセバスチャンを見る。「外に、出たいの?」。はっきりと頷き、かすかに声も聞こえる。セバスチャンはキャスター付きのベッドの向きを変え、外に出そうとするが、床まである窓の桟が邪魔してベッドが外に出ない。そこで、力任せに押す(3枚目の写真)。

すると、ベッドのキャスターは、桟を乗り越えるが、押した勢いが強く、おまけに、桟の外がいきなり草地の斜面になっていたので、ベッドはそのままコロコロと滑るように降りて行く。ベッドは、木の柵を壊して野原に出ると、ますます急になった斜面を転がって行く(1枚目の写真、矢印はベッドのフットボードの部分)。このロケ地はPiesenkam〔Piesenkamは、Oberbibergの南南東19キロにある〕という村の外れの一軒家(2枚目の写真)。1枚目の写真と見分けがつかないほど同じ角度での撮影だ。その熱意に頭が下がる。クラマーの祖母は、かなりの速度で下って行くベッドの中で、若かった頃の夫との幸せだった出会いを思い出し、半身を僅かに起こして両手を上げ、微笑みを浮かべる(3枚目の写真)。この時、彼女の頭には、若き日の自分が、オートバイのシート後部に座り、運転している夫に抱きついている時の記憶が蘇っている。ベッドは斜面の下にある納屋にぶつかり、祖母はベッドから飛び出て納屋のワラの中に飛んで行く(4枚目の写真)。この時の映像は、若き日の彼女と、彼氏の納屋の中での裸のキスシーン。セバスチャンのやったことは、死を直前にして、毎日ベッドで寝ているだけの彼女にとって、最後の贈り物となった。至急呼ばれた救急医は 「大事故の割に、とてもお元気です」と診断する。
 

セバスチャンは、クラマーの祖母を危険な目に遭わせてしまったので、家に帰る途中で、聖母マリア像の下で祈る。「あなたは祝福された方。あなたは胎の実。今も 死の時も、ボクたち罪人のために 祈って下さい」。しかし、夜になって眠ると、三度 “最後の審判法廷” の夢を見る。審判者:「老婆を殺したさかい、煉獄行きは20年とする! 聖母マリアでも、自分〔お前〕は助けたれん! 投げ込め!」。再び煉獄への入口が開かれ(1枚目の写真、矢印)、セバスチャンは煉獄の番人に捉えられ、絶叫する(2枚目の写真)〔これは、以前の1回目の時と全く同じ写真。撮影の手間を省いた? それを示すために、敢えて提示した〕。悪夢から目覚めたセバスチャンは、ギターの練習に励む(3枚目の写真)。

早く上達したいのと、眠ると また悪夢かもしれないので、セバスチャンは徹夜で練習する。そのお陰で、学校の授業中は熟睡。授業が終わって、他の生徒がいなくなっても、眠り続ける(1枚目の写真)。教師のヴェロニカは、問題児No.1が、また別の問題を起こしたことに困り果て、セバスチャンの席まで行くと、頭に触るが、起きる気配はない。机の上に出ている指を見ると、指先がひどく荒れている〔練習を始めたばかりなので、まだ “ギターだこ” ができていない〕。ヴェロニカは、セバスチャンを揺すって起こす。寝起きの不機嫌な顔を見せたセバスチャンに、ヴェロニカは、皮肉を込めて、「で、よく眠れた?」と訊く。「さあ… みんなは、どこ?」(2枚目の写真)。「帰宅したわ。どうかしたの?」。「疲れてるだけ」。「なぜ、いつも 疲れてるの? 指を どうしたの?」。「何が、知りたいの?」(3枚目の写真)。「答えなさい。さもないと、叱るわよ。手を どうしたの?」。「せんせに 叱れるん?」。「そういう態度なら、お父さんと話しますからね」。これで、前科二犯になってしまった。

学校から自転車で帰る途中、セバスチャンは、エヴィに行く手を阻まれる。「なんか用?」。「なんかあったん?」。「勘弁してや。帰らな」。「うち、なんかした?」。「ううん」。「ひいおばあちゃんは、元気やで」。「よかった。また一人、殺してもうたかと」。「『また』って? ママが死んだのは、関係あらへんやん」。「もし、ボクが おらへんかったら、ママは生きとった。今のパパは 一人ぼっち。全部、ぼくのせいや」(1枚目の写真)。「見つけ方、知ってるわ!」〔伏線〕。一方、家では、父ローレンツが 誰もいないので、いつものように、着ている物を全部脱いで洗濯機に放り込む。そして、洗い終えたものを籠に入れて 室内の広い物干し場に持って来る。ところが、そこには、セバスチャンのことで相談しようと入って来たヴェロニカがいた。ヴェロニカは、全裸のローレンツに、とても声などかけられない(2枚目の写真)。そこで、たくさん置いてあるテーブルの下に潜り込む。ところが、そこに、「シュナイダーさん?」と 呼ぶ声が聞こえ、中に入ってきたのは、クラマー。自家製のケーキを乗せた皿を両手で持っている〔セバスチャンがケーキを褒めたから〕。返事がないので、クラマーは物干し場の中に入って行く。そして、床に落ちていたパンツを拾って洗濯ロープに掛ける(3枚目の写真、矢印はテーブルの下に隠れた全裸のローレンツのお尻)。ローレンツはテーブルの下を這っていて頭をぶつけ、その拍子に、隣のテーブルの下にいるヴェロニカに気付く(4枚目の写真、矢印はクラマーの足)。ローレンツは、ヴェロニカに気を取られて前進を続け、テーブルから出てしまい、その正面にいたクラマーの膝に頭をぶつける。すごい格好のローレンツを見たクラマーは、動転して、「う、うち… 苺ケーキを 焼いたさかい…」と、口ごもる。運悪く、そこにグラウディンガーが入ってきて、2人の姿を見て 誤解する。「すげぇ!」。クラマー:「ケーキを、持って来ただけやで」。グラウディンガー:「俺も、服を脱ぐべきかいな?」。その隙に、ローレンツは素早く立ち上がり、タオルで前を隠す。そして、グラウディンガーに、「用は?」と訊く。「ロウソクが のうなったさかい〔なくなったから〕、新しい奴を持ってきた」。そう言いながら、グラウディンガーが部屋に入って来たので、その隙に、ヴェロニカがこっそり逃げ出す(5枚目の写真、矢印)。

翌日、エヴィはアルフレッドに電話をかけ、「写真を使うて、恋愛 させたいんです」と頼む。アルフレッドは、水曜の番組中にと断るが、セバスチャンが 「急いでんねん」と割り込み、エヴィが 「もう、始めてもうたんです」と言うと(1枚目の写真)、アルフレッドも軟化。「写真は あるんやな?」と訊く。2人が同時に「ええ」「うん」と返事する。「よろしい、特別サービスや。一緒にやろう」。その頃、ヴェロニカに学校まで呼び出されたローレンツは、セバスチャンの問題点を指摘され、「理解を 超えてます」と言われる。山の上では、アルフレッドが定番のインディアンの衣装に変え、この番組の時の神秘的な音楽を流す。「写真は、目に前に置いた?」。セバスチャンの前には父ローレンツの写真、アルフレッドのスタジオには、妻ヴェロニカが飾ってある。そして、エヴィが見ているのはセバスチャンの写真〔エヴィの写真はどこにもない〕。2人は、アルフレッドに言われたように、人差指と親指をくっつけ、大きく息を吸い込んでリラックス。そして、写真に集中する。「今や! 好きにさせたい人を念じて。祈りを、広大な宇宙に向けて発信しろ」(2枚目の写真)。すると、呪文が変な風に効いてしまう。セバスチャンが願ったのは、「父が誰かを好きになってくれますように」、もしくは、「父を好きになってくれる人が現われますように」であろう。エヴィは、「セバスチャンが私を好きになってくれますように」であろう。しかし、アルフレッドは妻の写真を見て、「ヴェロニカの自分に対する愛が変わりませんように」、もしくは、「ヴェロニカ、大好きだよ」くらいの気持ちであろう。それなのに、それまでセバスチャンのことで言い争っていたローレンツとヴェロニカが、魔法にかかったように、急に互いが好きになる。この呪文は、どうせフェイクなのだが、出席者の意志ではなく、置いてある写真の人物同士を結び合わせるものとしか考えられない。結果として、ローレンツとヴェロニカはすぐにキスする(3枚目の写真)。その結果を見ていないセバスチャンは、「電話で、うもう〔うまく〕いった思う?」とエヴィに訊く。セバスチャンを見ているエヴィの顔は、一方的なラヴラヴ(4枚目の写真)。それを見たセバスチャンは、「どうかしたん?」と訊く。エヴィ:「なんか〔キス〕 したいって感じへん?」。エヴィが可哀想。

翌朝、クラマーが祖母の寝室に行く、彼女は天寿を全うしていた。クラスは、宗教の時間。現れたのは、かつてセバスチャンが「不死」について質問に行った教会の牧師。牧師は、「今日は、『イサクを捧げるアブラハム』の予定だった。だが、今日、エヴィは欠席だ」(1枚目の写真)「ひいおばあちゃんが亡くなったからだ。クラマー家は、喪に服している」。セバスチャンの前の席のトニーが振り返ると、「自分〔お前〕のせいや」と批判する。牧師は、「では、今日の授業は、死と悲しみについて、話し合おう」と言い、「様々な宗教は、悲しみにどう向き合っているだろう?」と、問題を提起する。そこで、トニーが手を上げる。そして、「セバスチャンは、逮捕されへん?」と質問する。「もちろん、違う。例の事故が、死因だったという証拠はない。それに、セバスチャンは告訴されない。12歳未満だからだ。社会科で習ったろ?」(2枚目の写真)。牧師は、今度は、セバスチャンに 「怖がらなくてもいいからな」と慰めると、生徒全員に 「悲しみについて、質問があれば、黒板に書きなさい」と言いながら、折り畳み式の黒板を拡げる。すると、そこには、「セバスチャンは人殺し〔Sebastian ist ein Mörder〕」と書いてあった〔両脇の黒板にはドクロ〕。クラスの全員から白い目で見られたセバスチャンは、いたたまれなくなって教室を逃げ出す。

次のシーンが、先ほどのシーンと同じ日かどうかは不明。というのは、途中で、曾祖母の葬儀のシーンが入るので、死んだその日に葬儀が行われたとは考えにくいため。レストラン兼パブに入って行ったセバスチャンは、父に、「電話、3回鳴った?」と訊く。「なんやと?」。「電話が3回鳴ったら、エヴィのひいおばあちゃんなんや」。「アホ言うとらんで手伝え!」。セバスチャンは、いつもの4人のテーブルに、アルコールを運ぶ。その、何とも言えない顔を見たグラウディンガーが、「何て顔してるんや?」と訊く。いつも優しいプロスケは 「いける〔大丈夫〕、バスティ〔セバスチャンの略称〕」と言い、いつもは厳しいクンバーガーも 「クラマー婆はんのことで悩まんでええ」と慰める。カッフルが 「やめとけや」と反対すると、「せやけど、事実やろ。君は ようやった。婆はんを 哀れな境遇から 解放した」と 褒める(1枚目の写真)。いずれにせよ、このクンバーガーの考え方に、プロスケが不快感を表明する。「あんたは、一番の変人や」。「変人やって? 薬漬けで、寝たきりの人生が、どない残酷か」。そこに 電話が掛かってくる。父が電話に出ようとしたので、セバスチャンは、「取らんといて! それ、エヴィのひいおばあちゃんだ。今、止まるさかい」と必死になる。父は一瞬取るのを止めるが、ベルが4回目になると、受話器を取る。それは、ヴェロニカからのSOSの電話だった。「困ったことが。会えないかしら。私、結婚してるの」(2枚目の写真、矢印は芝刈り中の夫)。ローレンツは、声を落とす。「知っとる。で、どないすん?」。「分からないわ、全然。会わないと」。「どこで?」。「分からない」。「ダニガ湖 知ってる?」〔セバスチャンが ゾンビの作り話をした湖〕。ここまで話が進んだ時、夫のアルフレッドがいきなりヴェロニカの肩に触る。心臓が止まりそうになったヴェロニカは、「どうして、こっそり近付くの?」と 夫を非難する。その時、ヴェロニカが手に持った受話器から、「もしもし?」とローレンツの声がする。ヴェロニカは、「ええ、2人とも元気よ。ありがとう」と言って、電話を切る。そして、「盗み聞きしてるの?」と、夫をさらに責める(3枚目の写真)。この、ある意味、“極めて不自然” な妻の態度は、アルフレッドに疑惑の芽を植え付ける。「なんか、やましいことでも?」。ヴェロニカは、わざとらしく笑いながら、「いいえ」と答える。「動揺しとったやろ? 悪い意味で」。ヴェロニカは、それ以上 何も言えなくなって、向こうへ歩いて行く。

その間に、レストランには、葬儀を終えたクラマーやエヴィたち親戚の一行7~8人がテーブルに着いていた。セバスチャンが注文を取りに行く。セバスチャンは、元気のないエヴィに、「なあ、エヴィ。ボク、君のひいおばあちゃんと約束してん。ママと会うたら電話を3回鳴らすって」と打ち明ける(1枚目の写真)。それを聞いたエヴィの母クラマーは、「セバスチャン、あんたって とんでもない子ね。頭が、おかしいんちゃう?」と、最大限の非難。さらに、「アホな話は止めなはれ! 信じてるん? 天国に電話ボックスがあるとでも。聖ペテロが 携帯電話を貸してくれるとでも?」。その頃、アルフレッドは、ヴェロニカが話していた番号に電話をかける。レストランの電話が3回鳴る。その時、外で放りっぱなしにしておいた電動芝刈り機から煙が上がっているのに気付いたアルフレッドは、慌てて受話器を置いて外に走り出る。3回でぴたりと止んだ電話に、レストランにいた全員がショックを受ける。エヴィだけはセバスチャンに微笑みかけ、それに応えて、セバスチャンは 「ほらね、エヴィ。今、天国なんや」と言う(2枚目の写真)。恐らく、そこにいた全員が、それを信じたに違いない。

それから数日後の夜。外は雨。セバスチャンがベッドで寝ていると、窓に小石が投げられる。そして、エヴィとトニーが 何度も名を呼ぶ。最後には、エヴィは「セバスチャン、起きて、満月やで」と優しく、トニーは 「起きろ、クソったれ!」と下品に。この先が、奇妙な会話。トニー:「セバスチャン 起きろ! 土砂降りだ」。外では雷の音も。レンイコートを着た2人は、中に入ってくると、トニーが 「遅いねん! 窓に、石を何個投げた思う? もう、ずぶぬれだ!」と 文句を言う。セバスチャンは、行きたくないので。「月が完全に見えてへんと あかんのや。言わへんかったかいな?」と外出を拒否する。トニーは、コートのチャックを開けると、「怖いんか? 安心しろ。見ろ。ピストルや」と見せる。「そんな物、どこで?」(1枚目の写真)。「パパの戸棚の中さ」。「雨が降ってると、ゾンビは水から出て来えへん」。「それがどないした。もう止んでるぞ」〔さっきの、「土砂降りだ」から、1分も経ってない。いくらなんでも この脚本はひど過ぎる〕。実際に、外は、地面も濡れておらず、ヴェロニカが自転車で逢引の場所、ダニガ湖に向かう。後ろから、アルフレッドも自転車で後を追う(2枚目の写真、矢印)。ローレンツは、既に湖に着いていて、簡単な木橋の上で、ヴェロニカが来るのを 今か今かと待っている。3人は、真っ暗な森の中の小道を 小走りに湖に向かう。アルフレッドは途中で転んで自転車を壊し、頭に来て投げ捨てる。ヴェロニカは運転を誤って、自転車ごと湖にドブン! その音を聞いたトニーは、「なんやろう? 魔女なんかいな〔なのかな〕?」と、腰が引けている。ローレンツはヴェロニカを助けようと、湖に飛び込む。湖で泳いでいる2人を 真っ暗な中で見たセバスチャンは、「いっぱい、いんねん〔いるぞ〕!」と、トニーを怖がらせる(3枚目の写真)。エヴィはトニーに、「さあ、撃ちあらへんで〔撃ちないよ〕」と けしかけるが、口先だけの臆病者トニーは、「自分〔お前〕、撃てや。人殺しやろ!」とセバスチャンにピストルを渡す。セバスチャンは思い切って撃とうとするが、そこに、森の茂みをかき分けてアルフレッドが現われ、3人は化け物と勘違いして 悲鳴を上げて逃げ出す。逃げる途中で転んだトニーは、太い釘を打った木片が手のひらを貫き、これまでの行いから見て、因果応報だ。

一方、湖に飛び込んだローレンツは、ヴェロニカを助け上げ、一緒に木の橋に並んで座る。「一緒になれた」(1枚目の写真)。このロケ地はHacken湖(2枚目の写真)〔Hacken湖は、Oberbibergの南南東15キロにある〕。こんな場所、一体どうやって見つけたのだろう? 一方、トニーは、セバスチャンに釘を抜いてもらうが、最後まで根性が曲がっていて、「バイ菌が入って気ぃ狂うたら、言いつけたるさかいな!」と言い残し、セバスチャンに押し付けたピストルを忘れていく〔伏線〕。2人きりになると、セバスチャンはエヴィに、「早う、逃げな」と言うが、冷静なエヴィは、「なんで?」と訊く。「なんでって、ゾンビが いるやろ」。「ゾンビ? そうは、見えへんかったわ」。「何に、見えたん?」。「ドストレターせんせと、あんたのパパ」。「まさか、どうかしてる。パパと ドストレターせんせが、夜中の森で何してんねん?」(3枚目の写真)。エヴィは、いきなりセバスチャンにキスし、「これや」と教えて、1人で帰ってしまう。セバスチャンは、ニヤニヤしながら、「やっぱ、どうかしてる」と言う〔セバスチャンが、エヴィをどう思っているのかは、最後まで分からない〕。セバスチャンは、そのまま母の墓の前まで行く。「ママは選んだけど、知らへんねん。ドストレターせんせが結婚してるって。ボクには、アルフレッドが殺されへん。イヤや、ママ、でけへんで」。しかし、母の墓碑にとまっているのは、白い鳩ではなく真っ暗な鴉(からす)(4枚目の写真、矢印)。これは、セバスチャンにとって、「殺せ」という合図に他ならない。
 

セバスチャンが ギターを抱いて寝ていると、いつものように審判法廷の夢を見る。ただ、一方的に責められるのではない。声A:「重荷を 軽しゅうしたろう〔軽しくしてやろう〕、ちょっぴりな!」。声B:「アブラハムは、躊躇のうて〔躊躇なく〕、イサクを犠牲にした」。兄フランツ:「パパが独身のままだと、わし〔俺〕はずっと孤児や」。グラウディンガー:「こらチャンスや、セバスチャン。犠牲にすりゃええ」(1枚目の写真)。そして、トニーがいる:「何人も、殺してるやんけ」(2枚目の写真)。セバスチャンの足元には、エヴィーの曾祖母まで現れる:「さあ、行くのじゃ! 死は、美しいものじゃで」(3枚目の写真)。

一方、山の上では、妻の愛を奪われたアルフレッドが自暴自棄になっている。セバスチャンは、夢のお告げを実行しようと、夜の山道をふうふう言いながら走って登る。アルフレッドは、水の入ったコップをガラステーブルに置くと、そこに睡眠薬を大量に入れる(1枚目の写真、矢印)。しかし、いざ飲もうとして止める。代わりに、壁のポスターを見ると、レコードをかけ、天井から吊るしたロープの輪に首を入れて死のうとする(2枚目の写真)。セバスチャンは、岩場の下の細い岩道を走って行く(3枚目の写真)。この登山道は、アルフレッドのスタジオとしてロケ現場になったWendelstein山のパノラマレストランに行く途中に本当にある(4枚目の写真)〔登り始めた頃より、周りがやや明るくなっている〕
 

一旦は自殺を決心したアルフレッドだが、いざ実行しようとすると苦しくて、止めようとするが、今度はロープが外れてくれない。そして、暴れているうちに、足場にしていていたイスの背が倒れ、本当に首吊り状態となる。そこに、ちょうど間に合ったのがセバスチャン。アルフレッドを殺そうと、トニーのピストルを構えて建物の中に入って行く。セバスチャンは、苦しむアルフレッドに気付き、アルフレッドも、「セバスチャン… 助けて」とロープを手で押さえながら、何とか声を出す。セバスチャンは 両手でピストルを構えると、狙いをつけて(1枚目の写真)、発射。見事にロープに当たり、アルフレッドは床に落ちる(2枚目の写真)。アルフレッドは、ロープが首を絞めたままなので、「救急車を呼べ!」と必死に頼む。セバスチャンは すぐに電話で救助を求めるが、ずっと走ってきたので、グラスに水が入っているのを見て飲んでしまう(3枚目の写真、矢印)。

セバスチャンは夢の中で、深い森の中を彷徨(さまよ)う。そして、怪物に追われる。すると、巨岩に挟まれた地面に円形の白い光が見える(1枚目の写真)。本当に、こんなロケ地をどうやって探したのだろう? 2枚目の写真は、何度も出てきた聖母マリア像のあるRuhpoldingという町の南西4キロにある森の中。地面に出ている字形の木の根の形が同じなので、この場所に間違いはない。セバスチャンが落ち葉を取り除き、白く光る円形のガラス蓋を開け、頭から中に入る。そこは水中で、中には 写真でしか見たことのない母がいて、笑顔で手招きする。セバスチャンが母と一緒に泳いでいると、辺りは真っ白になり、次第に病院の一室に変わる。最初に見えたのは看護婦だった。時間と共に 次第に焦点が合い、父と兄とヴェロニカの3人が見える。父は 「やあ」、兄は 「よお、しばらく」と声をかけ、ヴェロニカは 「どう、よく眠れた?」と訊いてくれる。セバスチャンの最初の言葉は、「アルフレッドは?」だった。兄が 「元気さ、もう ラジオに出てる」と答える(3枚目の写真)。それを聞いたセバスチャンは(4枚目の写真)、また 眠ってしまう。次に起きた時に見た顔は、4人組からカッフルを引いた3人。セバスチャン: 「消えてもうてや〔消えちゃってよ〕」。プロスケ:「ご挨拶やな」。セバスチャン: 「ほんまもんなん〔本物なの〕?」。クンバーガー:「当たり前や」。グラウディンガー:「眠っとって、上演 見逃したな」。セバスチャンは、嫌なものは忘れたいので、すぐ眠ってしまう。
 

元気になったセバスチャンは、アルフレッドのスタジオに入って行く(1枚目の写真)。そして、ジョン・ウッドストックの爪を ガラステーブルの上に置き、「練習に使うとったんや」と言って返す。「ほな、うもう〔うまく〕 練習できたやろう?」。「もちろん」。「ほな、君を、不滅にしたろう」。そう言うと、アルフレッドは大切にしているピンクのギターをセバスチャンにかけてやる。「もう、必要のうなってん〔必要なくなったんだ〕」。アルフレッドは、「選択の余地はあらへん」と言うと、マイクに向かい、「みんな、今日は バリバリのギターの新人を、紹介しよう。スタジオからの生放送や。新星の名は、セバスチャン・シュナイダー!」と 派手に紹介する。セバスチャンはロックン・ロールを弾き始める(3枚目の写真)。毎晩練習していたので、嘘のように巧い。セバスチャンの最後のシーンが、エンドクレジットの中で、仲直りしたトニーたちと一緒に滝に行き、滝壺に飛び込み、両手でピースサインをする場面(4枚目の写真)。

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  ドイツ の先頭に戻る           2000年代後半 の先頭に戻る